公務災害の発生状況と防止対策
第1 消防団員の事故はいつでもどこでも起こり得る
1 公務による負傷者等の人数の推移
消防団活動に従事したことにより公務による負傷等を受けた全国の消防団員は、最近10年間の平均で約1,000人を超えている(図1)。特に、演習訓練時の事故は高い割合を占めている(図2)。
図1 公務による負傷者等の人数の推移
備考1 負傷者等の人数は、当該年度中に発生し、その翌年度末(令和4年度については令和5年12月末)までに基金が損害補償費等(療養補償や休業補償等)を支払ったもの。なお、括弧書きの人数は、そのうち死亡者数を示したもの。
備考2 消防団員数は、当該年度の4月1日現在の実員数。ただし、基金と消防団員等公務災害補償責任共済契約を締結していない市町村の消防団員数は含んでいない。
なお、令和元年度の増加は、未契約団体の加入によるものである。
備考3 令和2年度、3年度及び4年度は、コロナ禍のため活動機会が減少し、負傷者等も減少している。
図2 活動態様別発生人数の推移(平成29~令和3年度)
備考 「その他」はスポーツ行事、特別警戒、風水害等の災害等である。
2 活動態様別公務災害発生状況
令和元年度の公務災害の発生状況を活動態様別に見ると、「演習訓練」(70.8%)が最も多く、次いで「消火活動」(13.5%)となっており、これらで全体の8割以上を占める (図3)。
図3 活動態様別公務災害発生状況(令和元年度)
※ 本来、図3・図4は令和2年度のデータを用いるが、令和2年度はコロナ禍のため通常の活動がされておらず、事故の傾向も通常と異なっている。
そのため通常の活動がされ、これまでの傾向を示していた令和元年度のデータのグラフを掲載している。
3 ポンプ操法訓練に多発する下肢のけが
令和元年度の公務災害の発生状況を活動態様別に見ると、演習訓練時の公務災害は7割を超えており(図3)、うちポンプ操法の動作による負傷は7割近い(図4)。訓練中の下肢のけがが多発しており、主な事例には、次のようなものがある。
- 「小型ポンプ操法訓練中、ホースを担ぎ全力疾走していた際、大腿裏側に激痛を感じ転倒」
- 「操法訓練中、ホースを落とし、ホースの金具が右足に当たり負傷」
- 「ポンプ操法の練習中、ポンプ車後方に配置してあるホースをとるためポンプ車から下車し、向きを変えて走り出したところ、右足首をひねり痛みが走った」
- 「消防操法大会訓練中、筒先と第3ホースを担ぎ火点に向け駆け足で発進しようとした際、右足のアキレス腱のパチンという音がした後、痛みを感じて歩行不能状態となった」
図4 演習訓練中の公務災害発生内訳(令和元年度)
4 活動態様別・死亡原因別公務災害発生状況
最近5か年間に公務災害により死亡した消防団員は、9人を数える。
「循環器系疾患(脳血管疾患・虚血性心疾患)」による死亡事案と「圧死・水死」を合わせると半数を超える。
表1 活動態様別・死亡原因別公務災害発生状況(平成29~令和3年度)
(単位:人)
活動の態様 | 消火活動 | 風水害等の災害 | 演習訓練 | 往復経路 | その他 | 合計 |
---|---|---|---|---|---|---|
死亡原因 | ||||||
循環器系疾患(脳血管疾患・虚血性心疾患) | 1 | 2 | 3 | |||
圧死・水死 | 1 | 1 | 2 | |||
交通事故 | 1 | 1 | 2 | |||
その他 | 1 | 1 | 2 | |||
合計 | 1 | 2 | 1 | 2 | 3 | 9 |
(注)過去5年間(平成29年度から令和3年度)に公務により死亡した事案(令和5年3月末までに支払ったもの)
5 公務災害事例
(1) 平常時の事例
1 | 訓練中の事故 (1) | |
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性別 年代 階級 | 【概要】 模擬火災訓練において防火水槽に水を補給するため、防火井戸の蓋を開けていたところ、蓋が左足に落ちた。(左母趾末節骨骨折) |
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男 20代 団員 | ||
2 | 訓練中の事故 (2) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 消防団出初め式における操法競技訓練中、小型ポンプに吸管を接合中に右手小指先を挟み込み、右手を引いた際に右手小指を痛めた。(右小指マレット指) |
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男 30代 団員 | ||
3 | 消防水利点検中の事故 | |
性別 年代 階級 | 【概要】 春の火災予防運動に伴って消防水利の点検中、防火水槽の水量確認のために水槽蓋を開け、満水状態を確認後、蓋を閉める際、蓋と地面の間に右手中指を挟んだ。(右手指損傷) |
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男 30代 団員 | ||
4 | 訓練中の事故 (3) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 小型ポンプ操法訓練中、第一線のホースを延長したのち結合のため停止したところ、右足首を捻った。(右足関節捻挫) |
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男 30代 団員 | ||
5 | 訓練中の事故 (4) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 消防ポンプ操法の4番員として訓練中、自動車から下車し、ドアを閉める際に誤って指を詰め骨折した。(左環指末節骨骨折) |
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男 30代 団員 | ||
6 | 訓練中の事故 (5) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 消防操法訓練中、ホースを担ぎ走り出したところ、右足太ももを痛めた。(右大腿部挫傷) |
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男 20代 団員 | ||
7 | 訓練中の事故 (6) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 小型ポンプ操法訓練中、3番員として吸管を搬送時にスリップし、転倒した。(左第3・4中足骨骨折) |
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男 30代 団員 |
(2) 非常時の事例
1 | 消火活動中の事故 (1) | |
---|---|---|
性別 年代 階級 | 【概要】 建物火災発生時、筒先を担当して消火活動を行っていたが、筒先が左右に振られ体勢を整えようと踏ん張った際、突然首に痛みが走った。(頚部挫傷) |
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男 40代 部長 | ||
2 | 消火活動中の事故 (2) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 林野火災に出動した際、消火作業のため、小型動力ポンプを設置しようとしたところ、道路の段差に足をとられて右膝を路面に強打した。(右膝挫傷) |
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男 40代 団員 | ||
3 | 豪雨災害における災害防御中の事故 | |
性別 年代 階級 | 【概要】 台風の警戒出動時、詰所の2階から1階へ降りるため、風雨で濡れていた屋外階段を降りていた際、足を滑らせて転倒し、背部及び腰部を階段の角で強打した。(腰椎横突起骨折、胸椎骨折) |
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男 40代 部長 | ||
4 | 行方不明者捜索中の事故 | |
性別 年代 階級 | 【概要】 行方不明者捜索のために山中に入り、行方不明者が発見された後、搬送していたところ、体調不良になった。(脱水症) |
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男 30代 団員 | ||
5 | 消火活動中の事故 (3) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 建物火災において、鎮圧後にトタンを剥がす作業を行っていたところ、トタンを持ち上げた際、トタンに刺さっていた釘に触れてしまい右親指の付け根を負傷した。(右手掌挫創、破傷風、創傷感染症) |
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男 30代 団員 | ||
6 | 消火活動中の事故 (4) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 建物火災の消火活動中、車両より投光器を搬送するよう指示を受け、車両に走って戻る途中で延長してあったホースの上に誤って乗ってしまい、左足を捻って負傷した。(左第4・5中足骨基部骨折) |
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男 30代 班長 | ||
7 | 消火活動中の事故 (5) | |
性別 年代 階級 | 【概要】 建物火災の鎮火により撤収作業中、延焼建物のものと思われる瓦礫の釘を踏んでしまい、左足土踏まず部分を負傷した。(左足底刺創) |
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男 30代 団員 |
(3) 重大事例(死亡・療養)
1 | 傷病名 後頭部挫創、外傷性くも膜下出血 | |
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性別 年代 階級 | 【事故概要】 防災訓練で使用したホースを片付けるためにホースを伸ばしていたところ、水路に気付かず転落し、後頭部を強打した。 |
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男 40代 団員 | ||
2 | 傷病名 急性硬膜下血腫、頭蓋内開放創など | |
性別 年代 階級 | 【事故概要】 年末夜警に出る準備中、雪道で足を滑らせて後方に転倒し、頭部を強打した。 |
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男 50代 団員 | ||
3 | 傷病名 急性硬膜下血腫など | |
性別 年代 階級 | 【事故概要】 訓練に出動途中、車から降りようとしてバランスを崩して転落し、頭部を強打した。 |
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男 60代 団員 | ||
4 | 傷病名 虚血性心疾患(死亡) | |
性別 年代 階級 | 【事故概要】 火災発生に出動し、火災現場で警戒活動等に従事後、詰所から自転車で帰宅途中に発症して死亡した。 |
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男 60代 班長 | ||
5 | 傷病名 右小脳梗塞 | |
性別 年代 階級 | 【事故概要】 操法訓練中、筒先の排水操作を完了した後、突然頭がフラフラして座り込むようにして倒れた。嘔吐及び頭痛の症状もあった。 |
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男 30代 団員 | ||
6 | 傷病名 急性下壁心筋梗塞など | |
性別 年代 階級 | 【事故概要】 建物火災の出動指令を受け、緊急走行にて現場に向かった。緊張状態の中、現場に到着したあと、車両からホースを2本降ろし、約5m走って水利を確認した。そこから車両に戻る途中、卒倒した。 |
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男 40代 団員 | ||
7 | 傷病名 急性心筋梗塞、不安定狭心症など | |
性別 年代 階級 | 【事故概要】 火災現場到着後、中継送水を行うため、ホース延長を試みたところ、急に胸が苦しくなった。苦しさと痛みが引かなかったため、救急搬送された。 |
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男 40代 部長 |
第2 消防基金が進める公務災害防止事業
消防基金では、消防団員の公務災害防止のために次の3つの事業を推進し、消防団員の安全対策に取り組もうとする市町村等(契約締結市町村等(構成団体を含む。以下同じ。)、都道府県又は都道府県消防協会をいう。以下同じ。)を積極的に支援している。消防団員一人一人の安全確保と事故防止に、ぜひお役立てください。
1 消防団員公務災害防止活動援助事業
消防団員の福祉の増進を図るため、契約締結市町村等が公務災害防止のために行う安全装備品整備事業又は個別健康指導事業に対し、消防基金が助成金を交付する事業である。
なお、各助成金の詳細については、消防団員公務災害防止活動援助事業実施要領を参照されたい。
(1) 消防団員安全装備品整備事業助成金
契約締結市町村等が行う安全装備品整備事業(消防団活動中の安全性と行動性を高めるための装備品等を整備する事業をいう。)に対する助成金である。
(2) 消防団員個別健康指導事業助成金
契約締結市町村等が行う個別健康指導事業(消防団員の個別健康指導体制に係る取組又は健康増進に係る取組をいう。)に対する助成金である。
2 消防団員公務災害防止研修事業
消防団員の福祉の増進を図るため、市町村等が公務災害防止のために実施する次の4つの研修に対し、消防基金が講師のあっせんや教材の提供などの後援を行うとともに助成金を交付する事業である。
なお、各研修の詳細については、パンフレット(消防団員公務災害防止研修のごあんない PDF)及び消防団員公務災害防止研修事業実施要領を参照されたい。
(1) 消防団員安全管理セミナー
消防団員の安全確保と健康増進の重要性の認識及び理解を深め、消防団員全体への啓発普及を図ることを目的とした研修である。
(2) S-KYT(消防団危険予知訓練)研修
消防団活動に潜む危険を予知するとともに、その危険に適切に対応できる能力を養成するためのS-KYT(消防団危険予知訓練)の基礎知識とその実技を習得することを目的とした研修である。
(3) 消防団員健康づくりセミナー
循環器系疾患(脳血管疾患・虚血性心疾患)による公務災害の防止を図るための健康増進教育を行うとともに、健康増進に役立つ運動実技を習得することを目的とした研修である。
(4) 消防団員セーフティ・ファーストエイド研修
災害現場等で負傷者の応急処置を行う際に消防団員が自身の安全を確保した上で適切に対応するためのファーストエイド(外科的応急処置)及び災害現場等での悲惨な体験や恐怖を伴う体験等により急性ストレス障害が発生した消防団員に適切に対応するためのPFA(心理的応急処置)の基礎知識とその実技を習得することを目的とした研修である。
3 情報提供事業
消防基金ホームページ(https://www.syouboukikin.jp)や刊行物などにより、全国の消防団員や市町村等に向けて、公務災害防止対策調査研究の成果、消防団員の公務災害発生状況、消防団員の事故・ヒヤリハット事例などを情報提供している。